建物調査をしていて、図面と現地の状況が違うと言うことは
よくあることなのですが、竣工図(建物竣工時点の状態を表す図面)と 現地の状況が合っていないというケースがありました。 なんと、構造的に重要な1階の端部の『耐力壁』が構造図にはあるのに 実際はないのです。 壁がなく柱だけの、いわゆるピロティ形式になってしまっていました。 工事途中で設計変更して、梁を補強するなど、耐力壁を無くす代わりの 対策が取られていれば問題ないのですが、検査済証も取得していないため 適切な対処がされたかどうかも定かではありません。 ピロティ形式といえば、1階に壁がなく柱だけの開放的な空間ですが、 阪神大震災では多くの建物が倒壊する被害がでています。 ![]() しかし逆に、東日本大震災では、沿岸部にあるピロティ形式の建物は流失を免れ、 再使用できる状態で多く残っている、との学会報告も出ています。 これは、1階に壁がないことで津波の力を受ける面積が少なくなるため ではないかと分析されています。 <津波に強かったピロティ> 私たちが調査した建物は、沿岸部にある訳ではないので、 津波に見舞われる可能性は極めて低い状況にあります。 なので、やはり構造図に『耐力壁』として存在している壁がないことに 不安を抱きます。 実際その部分の梁の下端にはひび割れが入っていました。 補強など、適切な対処が行われることを望みます。 建物調査をしていると、思いもよらない事態に出くわすことがあります。 そしてこう思うのです。。。 「よくこれで、あの大地震で倒れなかったなぁ・・・」と。 地震による建物被害は、揺れの方向、横揺れ・縦揺れなど、 被害をもたらす要因はその時々で、また建物の状態で違ってきます。 上で述べたような建物も、たまたま偶然、被害を免れたのかも知れません・・・。 スポンサーサイト
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ある人が古い中古の空きビルを買って、物販店舗や飲食店舗として
テナントに貸そうと考えるとします。 その建物が昭和56年以前にできた建物の場合、いわゆる旧耐震基準の建物なので 現行の耐震基準には合わないことは一般的にも理解されていることです。 貸しビルで商売しようとするからには、ビルオーナーはその建物を耐震・防災面で 安全で、健全な状態にしておかなければなりません。 (民法717条:建物の所有者責任→建物に瑕疵があって他人に損害が出た場合は、 所有者が損害賠償責任を負うというもの) 普通に考えれば、これらのリスクを回避するため建物の構造強度を調査したり、 違反建築でないか専門家に見てもらったりすると思います。 先日こんな事がありました。 昭和40年代の建物を購入し、テナントに貸しやすいように階段の位置を移動したり、 当時の規定には無かった排煙窓を新に設置するという改修計画について 役所に事前相談しました。 なぜ相談したかというと、まずは『用途変更の確認申請』が必要になること、 もう一つは、階段は『主要構造部』に該当するため、そこを改修するには 『大規模な模様替えの確認申請』が必要となると思われたからです。 階段を移動したり、排煙窓を壁に新に設けることは、構造体に少なからず ダメージを与えるものであり、ましてや旧耐震の建物なので、 耐震診断を行ってその結果に基づき耐震補強をする旨も伝えました。 そしたら役所からは予想もしない答えが返ってきました。 『ただでさえ旧耐震基準の建物で構造的に問題があるのに、その構造体に 手を加えるということを認める訳にはいきません。構造体に手を加えるなら 現行基準に適合させてください。』というものでした。 現行基準への適合。。。不可能ではないかも知れませんが、それは建て替えて しまった方が簡単なくらい手間と時間(=コスト)がかかり、 とても現実的な方法ではありません。 こちらも、ただ闇雲に構造体に手を付けるのではなく、きちんと耐震診断をして 耐震補強も行ないますし、必要であれば構造評定も取ります、と伝えました。 構造評定とは、国が認めた認定機関の「お墨付き」のことです。 ここまでやります!という話をしたのですが、 『耐震診断・耐震補強は建築基準法ではないので、こちらでは 審査・判断ができません。』というのです。 確かに耐震診断は、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」という 建築基準法とは別の法律で規定されているものですが、 その認定機関の「お墨付き」を得たとしても 過去に実例はないので受付けない・・といって認めてくれません。 『古い建物は壊して建て替えろ!』とでも言っている様に聞こえます。 既存建物を有効利用する姿勢に、行政自ら高い壁を作ってしまっているのです。 省エネだ!エコだ!と騒がれて久しいですが、ビルを壊しゼロから新築する事が どれだけ環境負荷を与えるのか。。。 法の壁を越えた、実質的で柔軟な対応をとって欲しいものです! 只今、方策を検討中です。。。 |
去年の秋頃から続いている、お役所から「お墨付き」をもらう業務が、
先週末に無事完了しました! (正確には「お墨付きに変わるもの」を頂くことでの完了でしたが。。。) 検査済証が無い(発行されていない)建物を、違反建築とは知らずに購入された オーナーが、企業コンプライアンスの観点から、建物調査を発注し、そこで見付 かった建築基準法あるいは消防法に抵触する部分について是正工事を行ない、 役所に是正完了報告をおこない、役所から「お墨付き」を頂くという業務です。 自らの会社が入居するテナントビル、多くの社員が毎日通う建物を、健全な状態に 保つということは当たり前のことなのですが、違反や危険な状態に気付かずに 使っている例が意外と多い中、自ら調査を依頼し、悪いところは是正するという 行為は、企業の姿勢、資産価値の高い優良建築のストックといった観点からすると、 見習うべき姿勢だと思います。 建築行政の面からも、このような自主的な行為は、都市の防災安全、違反建築 撲滅という意味で、当然歓迎されるべきものだと思うのですが、これがなかなか 思うように受け入れてもらえないのです。 お役所業務である「建築パトロール」で指摘が出たものについては是正報告を提出・ 受理してもらえますが、今回のような自主的に行なわれた場合は、「そういう規定に なっていない」という理由で、当初は受け取ってもらえない雰囲気でした。 しかし、何度も足を運び、「純粋に建物を健全にしたい」、「是正をした事実を認め て欲しい」というオーナーの強い思いが届いたのか、最終的には是正報告を受理 していただくことが出来ました。 検査済証がないので、申請図面通りに竣工しているのか、確かに私たちの目視に よる調査では限界はあり、それに対して、役所が「問題ない」と言えないということは ある意味では理解できることでもあります。 なので、「資格を持った会社が調査を行い、その結果に基づき是正工事が 行なわれた建物である」ということを認めていただきたかったのです。 オーナー様にも何度もご同行いただきましたし、担当された建築指導課の 方々には、無理なお願いを聞いていただき、とてもありがたく思っています。 100点満点の結果には届きませんでしたが、自分としては納得のできる結果に 終わり、ほっと胸をなで下ろしているところです。 関係者のみなさま、ありがとうございました。 夕暮れの帰路は、目に留まるもの全てが美しく見えました! この気持ちを忘れずに、今年も新しい案件に取り組んでいきたいと思います。 ![]() ![]() |